令和9年1月開始|療養・育児・介護による標準報酬月額の特例

2026.10.17

令和9年(2027年)1月1日から、病気の治療や育児、家族の介護などと仕事を両立するため、勤務時間を短くするなどして給与が大きく下がった方について、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額を早く見直すことができる新しい特例が始まります。

簡単にいうと、療養・育児・介護と仕事を両立するために働き方を調整し、給与が大きく下がった場合に、一定の要件を満たせば、通常より早く標準報酬月額を変更できる制度です。

今回の制度については、「特例月変」と呼んでいる人もいますが、厚生労働省の通知では「保険者算定の特例」「特例改定」という表現が使われています。

今回は、厚生労働省が令和8年7月31日に出した通知をもとに、制度が設けられた理由、対象となる方、会社で必要になる手続きなどについてご説明します。

なぜ新しい特例が設けられたのでしょうか

健康保険や厚生年金保険の保険料は、毎月の給与を一定の幅で区分した「標準報酬月額」をもとに計算します。

給与が大きく変わった場合には、標準報酬月額を変更する「随時改定」という仕組みがあります。ただし、通常の随時改定では、固定的賃金(基本給や手当など、毎月決まって支払われる給与)の変動があった月から3か月間の給与を確認するため、標準報酬月額が変更されるまでに時間がかかります。

例えば、病気の治療のために勤務時間を短くして給与が大きく下がっても、それまでの高い標準報酬月額がしばらく維持される場合があります。

そこで、療養・育児・介護と仕事を両立するために働き方を調整した方について、一定の要件を満たせば、通常の随時改定を待たずに標準報酬月額を変更できる特例が設けられました。

厚生労働省は、この特例を「療養等と仕事の両立を支援する観点」から設けたと説明しています。

どのような方が対象になるのでしょうか

この特例を利用するには、主に次の3つの条件を満たす必要があります。

① 療養・育児・介護と仕事を両立するために、働き方を調整していること

本人と会社が合意したうえで、勤務時間を短くしたり、残業を減らしたりするなどの「就労調整」が行われていることが必要です。

② 給与が大きく下がり、その状態が続く見込みであること

就労調整によって給与が減り、その報酬をもとに計算した標準報酬月額が、それまでの標準報酬月額より原則として2等級以上下がることが必要です。

また、その状態が3か月以上続くことが、あらかじめ見込まれていなければなりません。

③ 本人が書面で同意していること

会社の判断だけで特例を利用することはできません。標準報酬月額が下がることによる影響を本人に説明し、書面で同意を得る必要があります。

「療養・育児・介護」はどこまで含まれるのでしょうか

通知では、それぞれ次のように定められています。

区分 対象となる場合
療養 本人が病気やけがの治療などを受ける場合。または、家族の治療などに伴い、本人が看護などの必要な対応をする場合
育児 小学校に入る前の子を養育する場合
介護 要介護認定または要支援認定を受けている家族を介護する場合

例えば、本人が通院しながら仕事を続けるために勤務時間を短くする場合や、家族の介護のために残業を減らす場合などが考えられます。

ただし、療養・育児・介護に該当するだけで自動的に対象になるわけではありません。本人と会社の合意による就労調整があり、その結果として給与が大きく下がることが必要です。

標準報酬月額はいつから変わるのでしょうか

今回の特例の大きな特徴は、標準報酬月額を早く変更できることです。

通常の随時改定では、原則として3か月間の給与を確認した後、4か月目から標準報酬月額を変更します。

一方、今回の特例では、要件を満たせば、給与が下がった最初の月の報酬をもとに、その翌月から標準報酬月額を変更できます。

例えば、治療と仕事を両立するため、4月から勤務時間を短くした場合を考えてみます。

4月の給与が大きく下がり、その報酬による標準報酬月額が従前より2等級以上低くなったとします。

その状態が3か月以上続く見込みで、ほかの要件も満たしていれば、4月の報酬をもとに、5月から標準報酬月額を変更できる可能性があります。

このように、今回の特例では3か月分の給与が確定するのを待つ必要はありません。

また、通常の随時改定とは異なり、固定的賃金が変わったかどうかも問いません。

支払基礎日数と被保険者期間にも注意が必要です

実際に手続きをする際には、給与が下がった月の日数や、社会保険に加入していた期間についても確認する必要があります。

給与が下がった最初の月の支払基礎日数

通知では、特例の対象として届け出る月を「報酬減となった初月」と呼んでいます。

この月の「支払基礎日数」(給与の支払いの対象となった日数)が、原則として17日以上必要です。一定の短時間労働者については11日以上となります。

例えば、4月を「報酬減となった初月」とする場合には、4月の支払基礎日数を確認します。

ただし、今回の特例には特別な取扱いがあります。

療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整によって勤務しなかった日については、所定労働日数に変更がなく、会社との使用関係が続いている場合、給与が支払われていなくても支払基礎日数として取り扱います。

一方、その月の全部について勤務せず、給与がまったく支払われなかった場合には、その月は特例の対象になりません。

なお、今回の特例では、通常の随時改定のように、3か月すべてについて17日(一定の場合は11日)以上あることを確認する仕組みではありません。

17日・11日の要件を確認するのは、原則として「報酬減となった初月」です。

ただし、厚生労働省の通知では、届書の記載方法について、算定事務の効率化のために3か月分の支払基礎日数の記載を求める取扱いも認めています。

3か月分の支払基礎日数を「記載すること」と、3か月すべてについて17日・11日以上であることは、別の話です。

実際の記載方法については、今後公表される様式や案内を確認する必要があります。

被保険者期間が3か月未満の場合

もう一つ、期間についての要件があります。

「報酬減となった初月」を含めて、被保険者であった期間が3か月未満の方は対象になりません。

例えば、新たに入社して社会保険に加入したばかりの方については注意が必要です。

また、「報酬減となった初月」の翌月に被保険者資格を喪失する方も、この特例の対象にはなりません。

このように、給与が2等級以上下がったということだけでなく、支払基礎日数や被保険者期間なども確認する必要があります。

実際の手続きはどうするのでしょうか

厚生労働省の通知では、事業主が次の書類を提出することとされています。

① 被保険者報酬月額変更届(特例改定用)

② 申立書兼同意書

提出先は、日本年金機構の事務センターまたは年金事務所です。

健康保険組合に加入している会社の場合は、健康保険組合にも同時に提出します。

また、通知では、健康保険と厚生年金保険の双方について、同様の特例改定の手続きを同時に行うこととされています。

会社での手続きの流れ

実際に従業員から相談があった場合には、次のような順序で確認するとよいでしょう。

  1. 就労調整の内容を確認する
    療養・育児・介護のどれに該当するのか、本人と会社の合意によってどのように働き方を調整するのかを確認します。
  2. 給与の減少と期間を確認する
    報酬が下がった最初の月を確認し、標準報酬月額が原則2等級以上下がるか、その状態が3か月以上続く見込みかを確認します。
  3. その他の対象要件を確認する
    支払基礎日数、被保険者期間、資格喪失の予定などを確認します。
  4. 本人へ説明し、書面で同意を得る
    保険料だけでなく、将来の年金や傷病手当金などへの影響も説明します。
  5. 届書を作成して提出する
    特例改定用の月額変更届と申立書兼同意書を提出します。
  6. 関係書類を保存し、その後の給与も確認する
    対象となる事実を確認できる書類を保存し、就労調整が終了・縮小した場合の給与の変化にも注意します。

会社で保存する書類

会社は、届出内容が事実であることを確認できる書類を、届出日から2年間保存する必要があります。

通知では、例えば次の書類が挙げられています。

  • 出勤簿、賃金台帳
  • 療養の事実が分かる医師の診断書
  • 子の年齢を証明する書類
  • 要介護状態または要支援状態であることを証明する書類

これらは、すべてを届書に添付するという意味ではありません。

会社で必要な事実を確認し、後から確認を求められた場合にも対応できるよう保存しておくものです。

なお、厚生労働省の通知には届書と申立書兼同意書の様式も示されています。今後、日本年金機構などから正式な案内や記入例が公表された場合には、実際の記載方法を確認する必要があります。

本人への説明と同意が必要です

今回の特例によって標準報酬月額が下がると、原則として毎月の健康保険料や厚生年金保険料も下がります。

しかし、本人にとって良い影響だけがあるわけではありません。

厚生労働省の通知では、特例を利用する場合に、次の点を本人へ十分説明するよう求めています。

  • 将来の年金給付が減少すること
  • 傷病手当金に影響が生じること
  • 出産手当金に影響が生じること

標準報酬月額は、毎月の保険料だけでなく、年金や健康保険の給付にも関係するためです。

そのため、会社が「給与が下がったので、社会保険料も下げておきます」と一方的に手続きを進めることはできません。

本人が制度の影響を理解したうえで、書面で同意することが必要です。

給与が元に戻ったときにも手続きが必要です

今回の特例では、標準報酬月額を下げた後についても注意が必要です。

療養・育児・介護のための就労調整が終了したり、調整の程度が小さくなったりして給与が増え、その報酬による標準報酬月額が特例改定後の標準報酬月額より2等級以上上がった場合には、速やかに届出が必要です。

この場合も、固定的賃金が変わったかどうかは問いません。

報酬が増えた最初の月の報酬をもとに、標準報酬月額を改定する取扱いとなります。

また、今回の特例で改定した後も、通常の随時改定や毎年の定時決定が必要になる場合があります。

会社では、特例の届出をして終わりではなく、その後の勤務状況や給与の変化も確認しておく必要があります。

「育児休業等終了時報酬月額変更届」とは何が違うのでしょうか

育児については、現在も「育児休業等終了時報酬月額変更届」という制度があります。

これは、育児休業等を終了した方について、復帰後の給与に合わせて標準報酬月額を見直す制度です。

今回の新しい特例とは、対象となる場面や改定の要件が異なります。

比較項目 令和9年1月からの新しい特例 育児休業等終了時改定
対象となる事情 療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整 育児休業等からの復帰
育児の場合の子の年齢 小学校就学前 育児休業等終了日に3歳未満
必要な等級差 原則2等級以上の低下 1等級以上の差
給与の確認 原則として報酬減となった初月 育児休業等終了後の3か月間
改定時期 報酬減となった初月の翌月 3か月間を確認した後の4か月目
本人の意思確認 書面による同意 本人の申出

例えば、4月に育児休業から復帰し、同時に短時間勤務を始めた場合を考えてみます。

育児休業等終了時改定では、原則として4月から6月までの給与を確認し、7月から標準報酬月額を変更します。

一方、今回の新しい特例の要件を満たす場合には、4月の報酬をもとに、5月から標準報酬月額を変更できる可能性があります。

このように、同じ方について両方の制度が関係する場合も考えられます。

ただし、両方の制度の要件を満たす場合に、どちらを優先して適用するのかについては、現時点で公表されている通知から明確な取扱いを確認できていません。

そのため、両制度に該当する可能性がある場合には、今後公表される日本年金機構等の案内を確認する必要があります。

令和9年1月からの制度です。今後の情報にもご注意ください

今回の特例は、病気の治療、育児、家族の介護などと仕事を両立するために働き方を調整し、その結果として給与が大きく下がった方について、より早く標準報酬月額を変更できるようにする制度です。

会社の担当者の方は、従業員から勤務時間の短縮や残業の抑制について相談があった場合には、働き方だけでなく、給与や社会保険への影響についても確認しておくとよいでしょう。

また、標準報酬月額を下げることには、保険料の負担軽減だけでなく、将来の年金や健康保険の給付への影響もあります。本人への丁寧な説明が大切です。

今回の制度は令和9年(2027年)1月1日から始まります。

今後、日本年金機構などから詳しい手続方法や様式、記入例、Q&Aなどが公表される可能性がありますので、実際に手続きをする際には最新の案内を確認してください。

参考資料

※この記事は令和8年(2026年)10月17日現在の公表資料をもとに作成しています。

この記事を書いた人

小山内 俊平

行政書士・社会保険労務士
小山内 俊平おさない しゅんぺい

小山内合同事務所 代表(石川県金沢市)

はじめまして。石川県金沢市を拠点に、富山県、福井県の北陸三県で、企業の許認可申請や「ひと」に関わる手続きをお手伝いしております。 手続きはあくまでも手段です。その先にあるお客様の事業の成功と発展をサポートすることを第一に考え、お客様の話を丁寧にお聞きし、目指す目的地への一番の近道を一緒に探すことを心がけています。 建設業許可の申請では、これまで石川県内の多くの個人事業主様や法人様からご相談をいただいてまいりました。専門的な内容を、できる限りわかりやすく、丁寧にお伝えしますので、どんな些細なことでも、まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。

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